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メール・マガジン
「FNサービス 問題解決おたすけマン」
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★第102号 ’01−08−03★
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微妙な質問
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●好きな作家は?
と訊かれたことは無いけれど、答えるとしたら迷わない。 ブライアン・
フリーマントル。 初めて読んだのは「別れを告げに来た男」でした。
アチラ風の書き方では珍しくもないのだろうけれど、散文(ではあるが)
調というより会話調? さりげない質問と、それへのさりげない答え。
相手の発言に潜む狙いや、自分の応じ方の成功か失敗かの評価、、、
言葉の無いところに細密な探りがあり、挑発があり、防衛や抵抗があり、
報復があり、、 とにかく色々な心の動きが込められていて、ウーン、
我々日常の会話の何と素朴なことよ、、 唸らされました。
アメリカへ亡命しようとしているソビエトの宇宙科学者、それが英国を
経由するために、英国内務省の亡命者尋問係やら、その上司やら、亡命
を阻止したいソビエト側やら、、 多数の頭脳や精神が絡む。
防諜のための事情聴取が骨格の小説だから知的格闘に終始するのは当然
だけれども、単なる言葉のやり取りでなく、話し手の表情や動作、発言
のタイミングや抑揚、すべてに意味を嗅ぎ取りつつ、質問で確かめたり
次へ誘ったり、、 真剣勝負、、だよなあ、これは。
筋のひねりは虚々実々の世界だから当たり前ですが、それが一言一句に
及ぶサービス満点。 いったいこの作家は? とあとがきを読めばこれ
が何と処女作。 以来、欠かさず買うようになりました。
*
米ソ対決構造の中で人気が高かった、と今や過去形で言わなくてはなら
ないスパイ小説。 機密情報を手に入れるスリルにしびれ、奇抜な工夫
の数々に感心する、、 のは楽しかったけれど、
ソビエト崩壊、冷戦終結で<夢>は失せました。 読者は気楽、いずれ
何か代わりの楽しみを見付けるでしょうが、そのジャンルを専門にして
いた作家たちは、さぞ途方に暮れたのではあるまいか。
ジョン・ル・カレは背を向けてしまい、フォーサイスは湾岸戦争で「神
の拳」、その後のロシアをタネに「イコン」、と頑張ったがそこまで。
「もうスリラーは書きません」と、恋愛もの(<マンハッタンの怪人>
とか。 読む気なし)に転向してしまった。 しかし
我がフリーマントルはさすが、二つのシリーズを新開発。 その一つは
EUのFBIと言うべき<ユーロポール>(欧州刑事警察機構)で働く
女性プロファイラーが主人公。 <心理分析官>ですから
<行間を読>んだり、一瞬も気を抜かずに暗い火花を散らすのは職業的
特性かも。 ところが相手は必ずしも心理学の専門家ではないのに丁々
発止で凄まじい。 しかも表面は慇懃、おお、外交的! というのが、
そもそも母体のEU自体が寄り合い所帯。 ユーロポールは役所、そこ
に集まっているのはエリートばかり。 役職の権限や面子、それぞれの
お国ぶりのようなものまで絡んで、油断も隙もあったものではない。
時に慎重、時に意地悪、ジャブを放って測定するや、すかさずグサリと
急所を突き、常に自己の優勢を保つ。 思いがけなく劣勢に陥ることも
あるが、一瞬のチャンスを逃さず挽回を図る。 当然、
狙いの無い発言は決してせず、常に心を研ぎ澄まして相手の言葉の背景
を探っている。 ディテールを見過ごさず、ニュアンスを瞬時に吟味し、
同時にその影響や、それへの対処を計算する、、 それは
異民族とせめぎ合いつつ歴史を築いて来た人々にはアタリマエなのかも
知れないが、<日本文化だけの日本人>にはやや耐え難いほどの重圧感、、
そうか!
各種国際機関における日本人職員数が、盛大なODAとは不釣り合いに
少ないのは、また、その種の組織のトップに立つ日本人がさらに少ない
のは、そんな厳しい環境に住み着く適性が基本的に無いからに違いない。
そういう適性が判定できるようなものでは<外交官試験>はないだろう。
そんな筆記試験に合格しただけの安直<エリート>に、国際交渉場面で
勝つことなど期待すべくもありません。 現に、
<機密費流用>も<ハイヤー代水増し請求>も身内レベル。 悪知恵も
ローカルでしかない<日本人>が、<肉食人種>と切り結ぶ時だけ急に
グローバルやインターナショナルになるとは思えません。
ということは、オトナとコドモの差、どころか「赤子の手をひねる」や
「手玉に取る」のたぐい、アチラさんの楽勝に決まっています。 素質
が、鍛え方が、意識や行動が、文字通り雲泥の差ですからね。
外務省の皆さん、フリーマントルの小説、座右に置いてるかな?
* *
彼が処女作をものしたのは37歳、「デイリー・メイル」紙の外報部長
をしている時でした。 通勤時間を利用して、とは恐れ入った話ですが、
著作活動に専念することになってからは<KGB>や<CIA>、その
ままをタイトルにしたノン・フィクションも手がけている。
調査や取材が徹底していることで知られた人ですから、ユーロポールに
ついても同様であったに違いない。 なら、たとえ彼が綴った通りでは
なくとも、似たような熾烈なやり取りを見聞してのことでしょう。
各国からの出向者が、それぞれの文化に根ざした
MUST や WANT を心に秘めており、職責遂行の随所でそれらを強固に主張します。 それらを
満たすために、選び抜いた言葉を決定的瞬間に投げつけ、相手の反応を
感知しては次の段階を模索し、あるいは補強・修正を図る、、
さながら
Rational Process 演技編、といった趣です。 うん、やはり、連中はそのままやってるんだ、と納得。 技法を重ね合わせると、小説
を読む楽しみが倍増します。 一種の文化的比較考察、、
以心伝心の日本文化は、お互いに違いは無い、という大前提。 だから
多くを語らずとも察しは付くし、<察しの悪い奴>は軽蔑される。 が、
無いはずが無い<違い>の確認、無くて良いものか?
今や多様化して、親すら我が子がワカラナイ日本人。 違いの確認には、
特段の努力が必要です。 <特段>とは、たとえば<苦痛を感じる位>。
お喋りな人なら、黙っていることが苦痛に感じられるほど努力して黙り
込んだつもりで、どうにかフツー並みの静かさなのだそうですから。
他との<違い>に無頓着なDNAを持った我々、苦痛なくらい確認努力
を重ねて、どうにか欧米人種並み、、 となるのではあるまいか?
そして確認には質問が不可欠。 さて、苦痛を感じるほど努力して質問
した記憶、あなたにはありますか? 苦痛なほど工夫した質問、、、
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●表題では<微妙な>としましたが、
より正しくは<精妙な>とすべきであったかも。 <精妙な質問>の例
を求めるとしたら、、 映画の観すぎ、小説の読み過ぎかも知れないが、
アチラ風裁判における<反対尋問>などいかが? そしてタイトルも
「反対尋問」そのもの、第一のお奨めはフランシス L.ウェルマン著
" The Art of Cross-Examination " 。 初版1903年の<古典>で、
旺文社文庫644のそれは約620頁、2センチ半の厚みがあります。
序文に先立って、「弁護士に要求されるあらゆる技能のうち、最も稀で、
最も役に立ち、そして最も難しいもの」が反対尋問で、 「この技能は、
常に、真実を調べる上で一番確かな方法であり、宣誓以上の保証になる
と考えられている」という(コックスなる人の)言葉が引用されている。
なぜ稀? デイビスという人の<序言>にある通り、「有益な反対尋問
と有害なそれとを、どこに線を引いて分けるかは、ただ経験しか教えて
くれない。 、、、そのまま進んでよい場合、退かなくてはならぬ場合、
また一か八か勝負に出てもよい場合を、教えてくれるあの第六感という
ものは、経験だけが与えてくれるのだ。 、、、あらゆる場合にあて
はまる定則などというものはない」からでしょう。
「ウェルマン氏が指摘するように、、」というのだが、たとえば手順に
しても、その第6章に、「、、、しかもなお反対尋問が必要だと考える
場合には、、、元の証言を最初と同じ順序で繰り返させても時間の無駄
になるだけ、、証人がその証言の本筋を述べた際の思考の筋道を捨てて
かからない限り、無駄骨折り、、、質問は論理的順序で行なってはいけ
ない、、、つじつまを合わせられると困るからだ。」 即ち、変幻自在。
Rational Process も同様、原理を身に着けることは大切ですが、それ
に囚われて杓子定規に陥ってはダメ。 技法はツール、ツールは目的を
達成する手段。 <技法を用いること>自体が目的になっては本末転倒
です。 そんなコツを、豊富な興味深い事例で教えてくれる本でもある。
*
俗に「かつてエイブラハム・リンカーンは、イリノイの田舎弁護士、、」
など申しますが、鵜呑みにしてはいけない。 弁護士としての23年間
に彼がイリノイ州最高裁で扱った件数172は地域法曹界最多。 並み
でなかったことは客筋の良さからも知れる、、
とウェルマンは第4章で指摘すると共に、F.T.ヒルの著作から引用、
「リンカーンと同じ時代に生きた者はすべて、反対尋問家として彼の右
に出る者がなく」、それは「リンカーンに凝視されると何もかもじかに
見通される気がした」からだ、とも書いている。
学校教育をほとんど受けずに育ったと言われるリンカーンですが、質問
が鋭いだけでなく、眼光の鋭さが凄かったという。 質問する人の<心
の窓>だから当然でしょうが、あなたの眼光は、、?
Rational Process は<方法>であって、それを駆使するのは十人十色
の人間。 無駄のない質問を可能にするツールではありますが、どんな
効果を発揮させられるかは、それを用いる人の<精神>次第。
こりゃどうしても解決せにゃ、、という場面ではその対象をカッと睨み、
「眼光紙背に徹す」とか「孔が明くほど、、」の<気迫>、つまり気で
迫ることが必要です、、
* *
とは言うが、そういうスゴイ人、この国にいますかね? 国会の<党首
討論>にしても、国民の代表のまた代表たちが良いところを見せる場面
のはずなのに、全然スゴくないし面白味も無い。 だいたい、
弁護士の肩書きを持つ政治家が多くない。 アチラでは珍しくない、、
どころか、クリントンなど、夫人までその道の<腕利き>。 質問で
リードすることにかけては役者が違う。 たとえば反対尋問、
英語では
< cross-examination > 。 <クロス>はボクシングで言えばクロス・カウンター・パンチの
cross 。 相手が繰り出してくる拳を紙一重にかわしつつ、その腕に絡ませるようにこちらのパンチを送る、、
打とう!の意識が相手に生じさせた僅かな隙を見逃さず、肉を切らせて
骨を切る接近戦法。 相手の踏み込みも利用するので衝撃力が倍加する。
まさに芸術的、その達人はKnock-out Artist 。 <芸術家>なのです。
ウェルマンが
" The Art of 〜" と題したのにも通じますかな。
<
examination > にはもちろん<尋問>という訳もあるが、<試験>はご存じ、<調査>、<検査>もある。 即ち<中身の確かさを調べる>
作業、、 分からないから、とか、知りたくて、というような甘いもん
じゃない。 バッサリやっつけることが目的のスレスレ必殺技です。
我が<党首>たちよ、<必殺>の気迫やスレスレ<技>、見せてくれ!
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●グローバル化結構、IT時代結構。
しかし、波が打ち寄せるたび、我々の<これまで>は否定され、不安が
高まる。 これからどうなるんだ? どうであったら良いのか?
一つの答えは、うろたえずに<人間力>を高めることでしょう。 何を
目安に、と言うなら、<これまで>の<日本人>レベルを抜け出ること。
<外>と切り結ぶには、<これまでの日本人>じゃ全然不足なんだから、、
*
実力向上を目指すにはベンチマーキング。 しかし、マークすべき対象
が近くに見当たらない、、 となれば<外>、それが小説の中の人物で
あっても贅沢は言うまい。 全く無いことなら書かれることも無いはず。
その取り方、生かし方次第です。
彼らの状況処理の<微妙さ>、<精妙さ>はストーリーから感得できる
でしょうし、ケース・スタディのつもりで読めばさらに興味が湧きます。
それはもちろん、彼ら<外>人の思考パターンで、、、
ということは即ち、
Rational Process の出番。 話の筋や会話の運びを先回りし、それが当たればまた面白い。 いわば技法解説書応用編、、
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と心得て翻訳推理小説を読めば
Rational Process のオサライも出来る。
狙いを絞り、スピードを高めること、それがグローバル・デファクト・
スタンダード。 今、あなたの職場でも求められているでしょう。
ただリズムやテンポを速めてもダメ。 <相手に対する測定の確かさ>
の裏付けが必要です。 漫然たるやり取りでなく、裏付けを取るための
精妙な質問、その積み重ねが必要です。 それは一つの<技>です。
幸いあなたには、それを我がものにする確実な方法がありましたね。
Rational Process は、<行間>に火花を散らす人のツール!
■竹島元一■
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